本紹介:戦術リストランテⅤ
みなさんこんにちは、ryuです。
先週ようやくエネルギー管理士試験が終わりました。勉強のためにフットボリスタやサッカーについての本を読むの止めてたので、ようやくまた再開できます。
というわけで、今回紹介する本はこちら。
主にフットボリスタでの連載をまとめた本になっています。
ペップ・シティがプレミアを席巻したポジショナルプレーの完成度の高さは、欧州17-18シーズン最大のトレンドであり、デ・ブルイネやウォーカー、ジェズスなど、多くの選手が輝きを見せたのもペップの大きな功績です。そのシティの戦術から派生してナポリやバルサにおけるシステムの紹介が書かれています。
また、興味深かったのは、サンパオリが先日のアルゼンチン代表でも見せたロンド(円を描くようなポジショニング)は、セビージャでのシステムを継承したものだということです。
ロシアW杯決勝トーナメント1回戦でアルゼンチン代表-フランス代表の試合をフットボリスタ・ラボ関西支部メンバーの皆さんと観ていたのですが、その時にアルゼンチン代表がなんとなく円を描いたような選手配置をしていることに気付きました。そこで周りの人はサンパオリシステムだから当たり前と思って誰もそのことについて口に出さなかったのかもしれませんが、私のようなペーペーはサンパオリのことを(腹の出たタトゥーおじさんかと・・・)良く知らなかったので、この本を読んでようやく理解できたのです。
目の前で起こっていることを理解するってこういうことなのかと。
その場では起こっていることがぼんやりと見えているだけですが、この本を読むことで意図と狙いがはっきりと分かるのです。
多くの人に対して平易に伝えていくことこそ日本サッカーの発展に欠かせない重要な道で、目の前で起こっている事象に対して分析し、イラスト化し、見える化する重要性を身に染みて感じた瞬間です。
5月に行われたCL決勝でリヴァプールを的確な戦術と交代策で下し、CL三連覇に輝いたジダン・レアルについても、BBCからMFのチームへの変遷が述べられています。
リヴァプールファンとしては、あの差を埋めるのは果てしなく遠い道のりのような気がしているわけですが。
さらにナーゲルスマン率いるホッフェンハイムについての考察が、W杯ドイツ-メキシコ戦の完全なデジャヴとなっているのも注目ポイントです。
17-18シーズン第20節バイエルン戦で見せたナーゲルスマンの戦略は、ボアテングにボールを持たせ、右側のパスコースを切りルディをマンマークにつけ、キミッヒにボールが渡ったところでハイプレスでボール奪取、一気にカウンターを狙うというものでした。
メキシコのオソリオ監督がドイツ相手に行ったのもまさしくそれ。
W杯のような注目度の高い試合であれば、Twitterでリアルタイムで戦術についての考察、議論が行われていきます。
サッカーを噛み砕いて狙いを見極める作業はSNS、インターネットの普及で加速度以上のスピードで発展しており、NHKが配信した戦術カメラからの動画編集を加えれば各国の狙いが即座に理解できます。
そんな時代に、選手で活躍したことが監督の条件として必要なのでしょうか。
ピッチ内で発揮する能力とピッチの外からチームをマネジメントする能力は違うと感じています。
サッカーはサッカーでしかうまくならないとモウリーニョは言いましたが、ならば監督は監督をしてうまくなっていくべきなのです。
育成年代から監督として優秀な若手を吸い上げるシステムの構築が求められます。
本作は欧州におけるトレンドとなるチームを基に戦術を新たな用語を用いながらも噛み砕いて書かれているのですが、本章の最後に2017年U-20W杯日本代表について書かれています。
言わずと知れた東京五輪世代で、否が応でも注目される世代です。
ここで取り上げられていたのが極小攻撃。3人が短いパスを繋ぎながら相手のDFラインを崩そうとするものです。
ここに西部さんは日本のゲームモデルのヒントがあると述べられています。ある意味ポジショナルプレーとは相対するものなのですが、自らカオスを作り出すものとして捉えれば良いと思います。
日本人のバルサ崇拝からどうしても美しいパスサッカーを標榜するのですが、日本人選手の強みは何かを理解した上で、ゲームモデルを作り上げねばなりません。
今月はU-21世代のアジアカップもありますし、その下の世代のAFC U-19選手権予選もあります。(岩崎ラストチャンスや、頑張れ!)
東京五輪を良いムーブメントとして巻込み、未来の日本サッカーを作り出すユース世代からボトムアップしてゲームモデルの提案がしていけたら、それはとても日本サッカーが活発になる気がしませんか。
巻末の西部さんと林さんの言語化を巡る対談も非常に面白いです。
日本サッカーのためにも、マリノスのサッカーはなんとか花開いてほしいところ。。。
これまで観てきたサッカーが、「こういう意図があったのか!」と理解するには最適な一冊です。ぜひご一読を。
日産スタジアムハイブリッド芝のお話
みなさんこんにちは、ryuです。
先週はハワイ州オアフ島に1週間行っておりまして、常夏を満喫しました。
Uberが当たり前になっていて、バスがあまり通っていないところとか空港を往復するエアーシャトルは高いのでちょっと、、という時に利用しました。5回くらい利用しましが、全て5分と待たずに来るのですごく便利でした。ドライバーはみんな良い人でしたし。オアフ島行かれる方はぜひ。
さて、今回は7/29(日)に日産スタジアムにて行われた、横浜F・マリノス主催「選手と体験ツアー」に参加してきました。
2002年日韓W杯決勝の舞台として有名な同競技場。
2019年ラグビーw杯、2020年東京五輪サッカー競技決勝の舞台となることも決定しています。
ここでサッカーを観たことはないのですが、陸上競技場ということもあって、やはりピッチと観客席の距離は遠い。こりゃ、ゴール裏で応援していても試合の動向を把握するのは困難。。。2階席の傾斜はほどよくついてて良いと感じたのですが、1階席はゆるくてどうしても奥行きが出てしまうのです。
なぜ決勝を埼玉スタジアムでやらないのかと思ったのですが、首都圏の大型スタジアム収容人数を調べてみると、
新国立競技場(6万8000人 ただし、五輪後にトラック撤去し、8万人規模の競技専用スタへ)
埼スタ(6万3000人)
味スタ(4万9000人)
となっているので、興行面を優先し、またアクセス面、大規模試合の実績を鑑みて日産スタジアム(7万2000人)となったのでしょう。
世界中から訪れるサッカーファンには申し訳ないですが、日本サッカーの現状はこれだと伝えるしかありません。。。
また、新横浜公園自体は巨大な遊水地となっており、鶴見川の氾濫時に街中心部の水害を防ぐ役割を担っているのです。
3月の豪雨で遊具等が水に浸かっているショッキングな映像を目にしましたが、あれは行政の想定通りなのですね。
ツアーの方はというと、グラウンドキーパーのお話、遠藤渓太、和田昌士両選手への質問タイムを経て、いよいよピッチに向かいます。
小中高、プロとずっと同じチームだという両選手。私はマリノスサポではないので遠藤選手しか知らなかったのですが、和田選手含め東京五輪世代なので今後の活躍に期待したいです。
(ユース上がりの若手選手は、クラブの発展に不可欠なのはもちろん、女性サポーターを惹きつけるためにも重要なのだ。。。ママサポのはしゃぎっぷりがもう。。。)
最高です。これほどボール蹴りやすいとは。
さて、本題に。
W杯期間中J1リーグは中断していたわけですが、その間を利用して日産スタジアムの芝生は、100%天然芝からハイブリッド芝に全面張替えが行われていました。
ハイブリッド芝とは天然芝に人工芝が組み合わされた芝のことで、Jリーグ規定では天然芝が95%以上となるように規定を定めており、日産スタでは人工芝の割合は2.3%ということでした。
このハイブリッド芝には2種類あり、天然芝を張った後に人工芝を打ち込んでいくタイプと、人工芝を張り巡らせた特殊なネットの上に天然芝を生育させるタイプがあります。
日本初のハイブリッド芝ピッチとなったヴィッセル神戸の本拠地であるノエビアスタジアムは前者。日照不足により長年荒れたピッチに苦しまされてきた神戸は、バルササッカーを追求するためにも芝のハイブリッド化を決断したのです。(イニシャルコストはウン億円らしい。。。三木谷パワー。。。)この方式はピッチ表面に人工芝が見え、その割合が数%といえどもボールの走りに影響してきます。雨の日ならなおさらです。シーズン開幕当初はボールの伸びに慣れず、ホームなのにパス回しに苦しむという皮肉なことが起きていましたが、今はいぶきの森にも整備され練習からハイブリッド芝を使える環境だそうです。神戸はハード面への投資も半端ない。。。三木谷パワー。。。
一方、日産スタは後者。これは表面上は天然芝と全く同じで、選手たちは違和感無く試合が出来るそうです。
これが断面。上部の短く刈り取られた芝が天然芝で、下部の長いのが人工芝。この長いピロピロが天然芝と絡み、芝の剥離を防ぎます。
特に、せん断方向(芝生に対し横向き)にかかる力に対する耐久性が大幅に向上します。
ノエスタの芝生も耐久性には優れていますが、日産スタは日照不足等の芝の生育に苦労はしていないということで、出来るだけ従来の芝生に近い2層構造のハイブリッド芝にしたのでしょう。
これは、タッチライン外のピッチを横から撮った写真です。
何本か人工芝が出ているのが確認できます。
ちなみに現在建設が進められている京都スタジアム(仮称)は、3種類の天然芝を試しているそうです。
新スタジアムの天然芝、どれがいい? 京都サンガ選手が体験 : 京都新聞
引用:京都新聞
芝の生育に問題があるという理由でゼロタッチを断念し、また亀岡は盆地で霧が立ち込めやすく日照時間も少ないので、そのような環境下でも育つ丈夫な芝生を敷設することが求められます。
快適な観戦環境のために全席屋根付観客席となっていますが、ノエスタのようにそれが原因で日照不足になる懸念もあるのです。
西京極競技場のように、ハゲハゲピッチでは選手たちが可哀想です。
(西京極は陸上競技大会も頻繁に行われているため、主にフィールド競技によって芝生が荒れてしまう。しかも、スタジアム側のロイヤリティも微々たるものとのこと。だってアマチュア競技だから。。。)
さらに、天然芝は夏芝と冬芝に分けられます。
ヨーロッパでは秋春制となっており、冬でも試合が出来るように冬芝(寒冷気候型)の芝生が採用されています。
ただ、日本では春秋制なので夏芝(温暖気候型)の芝生を採用してきたのですが、開幕して間もない時期や終盤戦のどうしても寒い時期に試合をする場合もあるので、その時に芝生がしっかり育っていないという問題がありました。昔の試合の映像観てたら、真っ茶なピッチですもんね。それを改善するために、日産スタでは夏芝と冬芝を併用しています。
サイクルとしては、
夏芝を生育→ピッチに張る→利用・補修→冬芝の種子を夏芝の上に蒔く(オーバーシードという。10月頃)→10度以下で夏芝の成長ストップ(休眠)、冬芝へ移行→冬は冬芝のみでピッチ管理→気温の上昇と共に夏芝が再び成長、冬芝は枯れさせる(3月頃)→夏芝管理・・・以下略
だそうです。芝生の上に種子を蒔くというのは驚きです。
夏冬の寒暖差が激しい、高温多湿の環境下では芝生を管理するのも難しいことが分かります。
近年ではラグビーW杯や東京五輪を開催するにあたり芝生の重要性が大きく取り上げられたこともあって、カシマスタジアムや大分銀行ドーム、吹田スタジアム等々ピッチ環境改善に動いている所は増えてきています。
しかし、夏芝と冬芝を併用している場所は限られており、ましてやハイブリッド芝を日本の気候の下で管理するのは前例が無いことです。これから夏場は試合開催が増えピッチの管理もシビアになってくることと思います。秋以降ピッチの状態を見て、ハイブリッド芝が日本で使用していけるかを見ていく必要があります。
単純にサッカー先進国の真似をすれば良いというものではなく、温暖湿潤気候地域に属する日本特有の難しさがあるわけです。
サッカーを観る際に、選手だけではなくピッチの状態に目を配ってみてはいかがでしょうか。ゴールを決めるためには、ピッチを味方につけなければいけないと感じるはずです。